2023.5.10

― 新会員スピーチ ―
「脳と心の可塑性から認知症予防を考える」
積山 薫 君

人生100年時代の今日ですが、85歳以降には日常生活で介助が必要な人、認知症の人が多くなります。自立して暮らし続けるために、認知症を予防したいものです。認知症の3分の2を占めるといわれるアルツハイマー型認知症については、脳内にアミロイドベータと呼ばれるタンパク質の異常な蓄積が引き金となり発症に至るとされていますが、脳内病理の程度と認知症発症とが必ずしも対応しない「修道女研究のパラドックス」も知られており、「認知予備力」という子どものころから形成される脳の抵抗力も絡んできます。認知症予防は、実は子どもの時から始まっているとも言えます。

欧米の一部の国では、新たに認知症になる人の率が低下し始めており、これには、認知症にならないための良い生活習慣の広まりが関係しているかもしれません。良い生活習慣を文献でひも解けば、認知的刺激、社会的交流、運動、睡眠、の4つは非常に重要であると考えています。

私は、「逆さメガネ」への適応という基礎研究を通じて、年齢を重ねると若者と比べて学習速度が遅くなることを実感しました。それと同時に、風邪をひいて寝込むだけで学習の積み重ねが後退するという「不使用の法則」を体験しました。高齢になると、脳のシナプス可塑性に関わる部位の減少から学習速度が遅くなるものの、健康な加齢では新しいことを学ぶ脳の可塑性自体はまだ残っているので、それを使っていくことが重要です。

アメリカの観察研究では、認知症リスクを低下させる趣味として、ダンス、盤上ゲーム、楽器演奏の効果が高いことが示唆されています。私の研究室の高齢者を対象とした介入研究では、運動や楽器練習を新たに始めることで、それを始めない場合に比べ、3~4ヶ月で認知機能の向上や脳の構造や機能の改善が見られ、脳の可塑性が確認できました。

睡眠には、脳内のアミロイドベータを掃除する効果があります。夜にぐっすり眠るために、運動や認知的活動や社会的交流で昼間をアクティブに過ごす、という生活の全体像が、認知症予防に重要なのだと思います。

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