2023.4.12

「皮膚のふしぎ」
京都大学 医学研究科 皮膚科 教授
  椛島 健治 氏

皮膚は、私たちの体を覆っているだけではない。皮脂を分泌して潤いを保つバリア機能がある。痛み、冷たさ、熱さなどを感じとる働きも重要だ。汗をかく機能はヒトとウマくらいにしかないといわれる。コミュニケーションにおいては、皮膚の状態が相手の疲れ具合などを感じとる基準になる。さらにバイ菌など外敵が侵入すると、皮膚の中の免疫細胞が働いて感染を防いでくれる。

このように皮膚は、多くの機能を備えた「臓器」の一つだと私は考えている。ヒトの場合、皮下脂肪まで含めた皮膚の重さは約10㎏、毛穴につながる部分まで含めた面積は畳20枚分にもなる。

生命体を守る多くの機能を備える一方で、皮膚がもつ免疫反応の結果として、かぶれ、じんましん、アトピー性皮膚炎などの病気を引き起こす場合がある。ヒトの皮膚疾患は、約2000種類にのぼる。命に関わる疾患は少ないが、QOL(Quality of Life)に影響を与える疾患は多い。

さらに皮膚は、体のゲートキーパー的な役割を果たす。病気のシグナルが現われるのだ。例えば顔が赤い場合には、リンゴ病、膠原病、丹毒など、さまざまな病気が疑われる。老人性のイボが数週間で急増し、かゆみがあるときは、内臓に潜む悪性腫瘍のシグナルである場合が多い。

皮膚科学のなかでも、私はアトピー性皮膚炎を専門にしている。世界で約2.3億人、日本で数百万人の患者がいるアレルギー疾患だ。そのほとんどが、子どもの頃に皮膚が乾燥していて、かゆくて掻いたところから、アレルゲンが入ったことが発端になる。異物に対する免疫応答が誘導されて炎症が起きると、そこがさらにかゆくなる。掻けば掻くほど皮膚が壊れ、バリアが壊れるという悪循環を招いてしまう。

皮膚の内部を観察できる機器の発達によって、さまざまな疾患のメカニズムが解明されるようになった。アトピー性皮膚炎のメカニズムの研究は、皮膚のバリア機能の強化や、かゆみのコントロールに効く、世界初の新薬開発に役立てることができたと思う。「Expert Scape」という専門家のランキングにおいて、アトピーの分野で私が4位にランクされているのは、新薬開発に関わったことが評価されたようだ。皮膚科の分野では現在、2位だ。世界ナンバーワンをめざして、臨床に応用できる研究をこれからも続けていきたい。

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