2023.4.5

― 新会員スピーチ ―
「日本絵画への理解」
佐々木 正子 君

文化庁が京都に移転しましたので、文化都市京都のブランド力は益々上がってくることと思います。伝統文化の上に新しいものが生み出され、高い文化度をキープすることは、単に文化芸術の為だけではなく、観光や経済活動にも大きな影響を与えるものと思います。その意味でも京都人自身が文化芸術に関心を持ち続けることは重要であると考えています。

私は日本の古典絵画の研究をしていますが、その特徴は、まず自然を尊重し、季節感を貴び、語りすぎない表現を良しとしていることです。俳句などの文学的表現でもイメージを伝えるにとどめ、具体的な細部の説明はありません。絵画も同じ美意識を保持しています。それは鑑賞する側の自由性を尊重しているからで、鑑賞者が自分の体験や感覚を通して想像を膨らませることで初めて日本絵画は完成するのです。

例えば長谷川等伯の霧に煙る「松林図」には地面も背景も描かれていません。日本絵画の特色である漠とした空間表現では、画中の景色・空間を具体的に規定しないのです。しかし我々は霧に煙る松林の静寂な雰囲気を、感性と想像力を働かせて体感することができます。 また、伝統的な日本絵画の時勢表現では左側が未来になります。四季を描く場合には、秋の未来である冬は左側に描かれます。また旅立つ人は左向きに描かれ、訪ねてくる人・帰ってくる人は右向きになります。

こうした伝統的表現を継承する一方で、京画壇は長い間に新しいものもどんどん取り入れて、新たな伝統としていきます。例えば西洋の「聖像画」が日本に持ち来たらされたときは、その金地テンペラ画の技法を習得し、聖人の光輪の縁にあるポツポツとした小さな盛り上げ模様を、源氏雲の縁の装飾として取り入れるなどし、小さな聖像画の描法は、やがて御用絵師の描く金地極彩色の大障壁画へと展開していきました。

その御用絵師狩野派は江戸幕府の滅亡で流派を絶たれてしまいますが、最後の絵師狩野芳崖は亡くなる前に西欧の「聖母子像」に対応する最高傑作「悲母観音」を描き、悲母観音が新しい命を未来へ送り出す姿に重ねて、日本画の未来を次の時代に託しました。

京都文化も今の私たちが築くものが未来の伝統となっていきます。文化都市京都を守り続けるために、その思いを忘れずにいたいと思います。

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