2020.12.16

「職場における心の健康づくり」
(医)知音会 杉本医院からすまメンタルクリニック
医師
鶴 多紀 氏

職場における労働者の健康保持については、「労働安全衛生法」に基づき、1988年から様々な取組みがなされてきた。とりわけ近年は身体だけでなく、心の健康づくりへの関心が高まっている。

「精神障害の労災申請件数」をみると、増加傾向が目立ち、2018年度には1,820件にのぼった。また、自殺者のうち3分の1は労働者だといわれているが、1998年から2011年までの全国総数は年間3万人超。なかでも2003年には34,427人と過去最多になった。自殺の原因は様々だが、「仕事に起因する割合が高い」と家族が考えた場合、企業は「労働契約法」第5条に基づく安全配慮義務(危険予知義務、結果回避義務)を果たしたか、問われることになる。労働者のストレスを軽減する、企業としての対策が求められている。

職場のメンタルヘルス対策としては、2015年に導入されたストレスチェック制度が有効なツールだと思う。産業保健の分野で「一次予防」と呼ばれる未然防止策だ。まず現状をチェックする。それが、労働者自身のストレスへの「気づき」を促し、原因となる環境の改善につながるヒントをもたらしてくれる。

発生してしまった問題を、いかに早く発見し対策をするか。それが「二次予防」だ。具体的には、検診・診断やカウンセリングなどがある。

ストレスの原因がわかり、それを取り除いても、元通りに仕事に復帰できるとは限らない。長期間ストレスにさらされて心身の不調をきたした場合、ストレス源から離れても、不調が継続することが多いからだ。

問題が悪化したケースでは、本人が「回避できるポイント」をつかみ損ねたとも言えるが、企業側の配慮が適切でなかった事例もある。例えば期間を限定せずに「休んでいい」とする対処は、「問題がある」という本人の自覚を失わせてしまい、受診の機会喪失につながりかねない。

心の不調を訴えて休職した人がスムーズに復職するには、復職リハビリテーションや企業内での慣らし勤務が必要になる。その中で復職が可能な状態かどうかを見極めていくのが望ましい。

メンタルヘルスケアの成果は、一朝一夕には得られない。専門家への委託や、公的支援の活用も視野に入れ、今できる最良を求めて働きかけを続けることが大切だと考えている。

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