2019.12.18

「PD-1、がん免疫療法、そして2018年ノーベル賞」
奈良先端科学技術大学院大学・准教授
石田 靖雅 氏

血液の白血球の中にあるリンパ球は、主にB細胞とT細胞からなり、外敵を見分ける特殊なアンテナを持っている。Bリンパ球はウイルスなどを外敵と認識し、体外へ排除しようとする。Tリンパ球は、ウイルスなどに感染した細胞を殺しウイルスを増殖させない、という働きをする。

Tリンパ球には正常な細胞を誤って攻撃しかねないものもあるが、そのようなリンパ球は自殺をする。それが明らかになったのは、私が大学院生として京都大学の本庶研究室に在籍していた1990年頃のことだった。私は、リンパ球の自殺に関わる遺伝子を見つけ出すことができれば、「自己-非自己」の識別という、免疫学において重要な問題を解決する糸口になると考えて、本庶先生のもと研究に取り組んだ。

サブトラクション(引き算)法を用い、自殺するT細胞から元気なT細胞を引き算して行った。そして、死にゆく細胞だけに出てくる遺伝子を発見することができた。細胞の自殺に関与する遺伝子として「Programmed Death-1(PD-1)」と名付けた。その後、PD-1の研究は後輩たちに託し、私はハーバード大学へ留学した。

本庶研究室のその後の研究によって、PD-1は自殺に直接関与する遺伝子ではないことがわかった。T細胞がウイルス感染を終息させた段階で、周囲の細胞が出す鎮静化シグナルを受け取る受容体であることが明らかになった。

これが、PD-1抗体を用いたがんの免疫療法につながって行った。T細胞は、体内のがんを認識し攻撃する。ところが、がん細胞は鎮静化シグナルを発現してPD-1に送り込み、T細胞を無力化してしまう。それなら、鎮静化シグナルをPD-1抗体でブロックし、本来の免疫応答によって、がんを撃退しようというわけだ。

わが国では2014年、「オプジーボ」というPD-1抗体が、がんの治療薬として認められた。今では世界各国で、PD-1抗体のがん治療薬が使われている。がん治療の新しい柱を打ち立てた功績によって2018年、本庶佑先生はノーベル医学・生理学賞を受賞した。共同研究者など多くの仲間がこの受賞を喜んだ。

だが研究に終わりはない。これからも、PD-1あるいは免疫系における「自己-非自己」識別の問題について研究を続けて行きたい。

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