2019.12.11

「四季と茶碗」
千家十職 土風炉・焼物師
永樂 善五郎 師

私は、茶の湯で使う焼物を作っている。絵を描いた茶碗が多い。様々な思いを込めて、使う人の心に響く絵を描きたいと常々考えている。

日本人の季節感は繊細だ。春・夏・秋・冬をそれぞれに味わうだけでなく、季節と季節のあいだの移ろいを先取りして感じとることに敏感だといわれる。その感性は日本人の美意識につながっているように思う。だから季節感は大切にしたい。

例えば3月の茶碗。あけぼのの空にやわらかな春風がそよいで、そこに芽張りヤナギがそっと咲いている図柄で、この季節を表現した。

4月の茶碗には、サクラとキジを描いた。頂点を少し過ぎた頃を「たけなわ」というらしい。サクラなら満開のあと、少し散りかけた頃だ。そのさまが日本人の心を打つ。だから、散り去っていく花を惜しむ気持ちを込めて描いた。キジは、春の繁殖期に声高く鳴くので、この季節を表現する鳥として、日本画の題材によく取りあげられる。

8月の茶碗には、秋の七草をあしらった。8月になると、夜には少し秋の気配を感じる日がある。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(古今和歌集・藤原敏行)という歌に詠まれたような秋の気配だ。それを感じる独特の感性が日本人にはある。

12月、冬至にはよくユズ湯に入る。ユズの実には、夏に力いっぱい降り注いでいた太陽のパワーが詰まっている。太陽の力が最も弱まる冬至に、ユズ湯で太陽の力を感じとって「一陽来復」、そういう意味があるという。それで、12月の茶碗にユズの絵を描いた。

焼物に絵画を取り入れることによって、季節感や日本の慣習に込められた意味を表現することができる。

お茶会の意味合いを皆で共有してほしいと願って作る茶碗もある。新年を祝う初釜で使われる、干支を描いた茶碗もそのひとつだ。阪神・淡路大震災後の辰年には、夢と希望が入った玉をつかんでいる竜の絵柄に、復興の願いを込めた。

茶碗の絵に込めた思いや季節感も味わっていただきながら、お茶を楽しんでいただければと願っている。

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