2019.10.16

「平安神宮神苑の生きものたち」
平安神宮 宮司
本多 和夫 氏

平安神宮は明治28(1895)年、平安遷都1100年を記念して創建された。その神苑は、著名な造園家・七代目小川治兵衛さんによって造成された。約1万坪の池泉回遊式庭園は、明治を代表する日本庭園として広く知られている。

私は平安神宮に奉職して40年余り、神苑にいる生きものを見続けてきた。樹木200種、草木300種のほか、アオサギ、カワセミはじめ年間40種類の鳥などを観察することができる。

池には、イチモンジタナゴに代表される琵琶湖の直系種が生息している。小川治兵衛さんが池の水を琵琶湖疏水から引いたので、琵琶湖の魚や貝が入り込んだ。40年ほど前に設置した浄化装置のフィルターが外来魚の侵入を防いだことも幸いし、今では失われつつある琵琶湖の生態系が神苑の池に残っている。琵琶湖では20年以上、イチモンジタナゴの姿は確認されていない。

イチモンジタナゴ(体長5~7㎝)のメスは産卵期になると長い産卵管を伸ばし、それを大きな二枚貝の呼吸管に差し込んで卵を産む。オスは、卵が孵化するまでの約1カ月間、その貝を守るというユニークな習性がある。つまり、タナゴ類の繁殖には大きな二枚貝が不可欠というわけだ。

かつて神苑の池には、マルドブガイという二枚貝がたくさんいたが、それがヘドロの堆積によって減ってしまった。そこで今年、ヘドロの浚渫をした。貝が増えるには数年かかるだろう。造園当時の状態に早く戻ってほしいと願っている。

春先になると、タナゴ類のオスの体には婚姻色(虹色)の線が現れる。だが、博物館など蛍光灯のもとで見るタナゴには、本来の婚姻色が出ない。自然光のもとでしか見られないタナゴの本物の婚姻色を、子どもたちに見せられる環境をこれからも残していきたい。

豊かな生態系を守るために、私たちにできるのは、日々の注意深い観察と、生きものたちの本来の営みが続くよう願うことだけだ。例えば、カルガモの子どもがカラスに襲われても、私たちは手を出さない。生きものたちに近づきすぎないように細心の注意を払っている。

都会の真ん中にありながら、多様な生きものに出会える平安神宮の神苑を、改めて巡ってみてほしい。生きものの声に耳を澄まし、自然の営みを観察する楽しさを見つけていただきたい。

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