2019.5.29

「和歌に詠まれた四季」
公益財団法人 冷泉家時雨亭文庫 常務理事
冷泉 貴実子 氏

日本の暦は、明治5年に太陰暦から太陽暦に変わりました。ですから、古典に記された日付は、現在とは異なる季節を示しています。

昔は、睦月・如月・弥生(1-3月)が春、卯月・五月・水無月(4-6月)が夏、文月・葉月・長月(7-9月)が秋、神無月・霜月・師走(10-12月)が冬でした。季節の始まりが「立春」「立夏」「立秋」「立冬」で、それぞれの前日は季節を分ける「節分」でした。少し日取りが前後する年もありますが、現在の2月3日が節分で4日が立春です。昔は立春の前後にお正月を迎えました。お正月に「迎春」という言葉を使うのはその名残です。

昔の季節は、日(昼間)の長さで決められました。電灯もなく過ごす夜の暗闇は怖いものでしたから、日が長くなってくる春を迎えるのは人々にとって大変な喜びだったのです。

「君がため春の野にいでて若菜つむ わが衣手に雪は降りつつ」(古今和歌集・光孝天皇)

これは、愛する人のために春の野原に出て若菜を摘むと、まだ春が浅いから私の袖に雪が降っている、という春の歌です。春の野原に芽吹いた緑をいただく「七草がゆ」も春の喜びでした。

夏は、伝染病が流行り、多くの人が亡くなる嫌な季節でした。息苦しい夏を無事に過ごした後にやってくる秋を人々は待ち焦がれました。苦しい冬にはまた、春を待ち焦がれて過ごしました。

そして日本人は、それぞれの季節のなかに美を求め、歌に詠んできました。

「奥山にもみぢふみわけ鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき」(古今和歌集・猿丸大夫)

私たちはこの歌から、鹿が奥山でもみぢを踏み分けて鳴いている姿を思い浮かべます。見たことがなくても、その景色を想像することができる。これが日本の「型」の文化です。「梅にウグイス」と言えば、春を感じることができるのです。

現代短歌では、あなたの経験したこと、あなたの感覚を詠みなさいと言われます。「私」と「あなた」は違うことが前提です。けれども、かつての日本の和歌においては、「私」と「あなた」は同じという世界でした。春には春の、秋には秋の「型」があり、それを踏襲してきました。

個性が大事にされる現代ですが、もう一方にある日本の「型」の文化、一緒に季節の美を楽しむ文化もぜひ味わってほしいと思います。

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