2019.5.8

「外科医を育てる」
京都府立医科大学大学院医学研究科 心臓血管外科学 教授
付属病院長
夜久 均 氏

外科医は、プロフェッショナルでなければならない。辞書によると、プロフェッショナルとは専門家、職業人をいう。説明の中には「自分以外の他者への奉仕」というキーワードもあった。ロータリークラブの理念とも相通ずるものがあると思う。

外科医は、患者ひいては社会に対して質のよい手術をすることを公約し、その代わりに医師免許によって医療の独占権が与えられている。手術をしても傷害罪には問われない。ただし、それに伴う責任として、倫理観をもつこと、医療の質を向上させること、科学的な知識を身につけることが求められる。熟練した技術も要る。「手が頭脳の要求する仕事をこなせなければ外科医ではない」といわれる。

外科医になるためには、さまざまな訓練が不可欠だ。初心者のうちは、指示されたことしかできない。問題解決能力が高まり指導力が身につくと一人前といわれる。さらに予測力、直感力が備われば、達人といわれるようになる。

心臓外科で最も多い手術は冠動脈バイパス術だ。冠動脈は表面にあるので、心臓を止めずに手術ができる。心拍動下で手術をすると、人工心肺装置を使って心臓を停止させることに伴う合併症のリスクが下がる。だが非熟練者の場合は心臓を止めて縫うほうがバイパスの開存率が高い。だからといって常に熟練者が執刀したのでは、若手医師のトレーニングはできない。

よい手術、優れた手技は、次世代に引き継がれ洗練され続けなければ、効果的とは言えないし広く普及しない。名人芸に終わらせずスタンダード化して、技術を引き継いでいく必要がある。そこでシミュレーターを使って計画的に経験を積むオフ・ザ・ジョブ・トレーニングに力を入れるようになっている。このトレーニングによって特定の知識、技能の欠落が埋められる。何度も繰り返し経験できて失敗から学ぶことができる。忍耐強くトレーニングをして、獲得したスキルを臨床で活かし、それをさらに持続する努力が大事になる。

最近、グリット(GRIT=やり抜く力)スコアが注目されている。アンジェラ・ダックワース氏が提唱した指標だ。一流のスポーツ選手などはこのスコアが高く、物事を完遂する能力が高い人が多いという。我々も日々、グリットの大切さを伝えようと、若い医師たちの教育に向き合っている。

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