2019.4.10

「日本画の中の風景 ―花鳥風月/社会と絵をえがく―」
日本画家
定家 亜由子 氏

私は小さい頃から絵を描くのが大好きでした。あまりに静かなので母が部屋をのぞくと、襖一面に色鉛筆で絵を描いていたことがあったそうです。とても楽しそうだったので、母は怒りもせず、それからは常に画材を持たせてくれて、旅先などでも絵を描く環境を与えてくれました。そのおかげで今の私がいる、と思っています。

小学校3年生の時にふと思いついて、一日一枚、ハガキ大の紙に絵を描くことにしました。それもイメージで描くのでなく、実際にあるものをよく見て描こうと決めて、1000枚、描き続けました。いま思えば、これは写生です。

写生は、京都画壇の日本画家の人たちがとても大事にしてきたことです。写生を通してものと対話することによって、風とか匂いとか、その存在の奥にあるものを見つめることができます。私も写生による「ものとの対話」を大切にして日本画を描いています。

もう一つ、私が大切にしているのは「画材との対話」です。日本画の画材には大きな特徴があります。まず、鉱物を砕いた岩絵具を使います。これは千数百年前から受け継がれ、今は日本だけに残る技法です。緑色の孔雀石、青色の藍銅鉱(らんどうこう)など、宝石のような石を使い、砕き方の細かさによって色の濃淡を出します。作家は砕いた岩に、にかわを混ぜて絵具を作ります。湿度や温度も影響する繊細な手作業です。そして、動物の毛や竹などを使って職人さんが作り上げた筆を使い、紙や絹の画面に描くのです。

一枚の絵は、鉱物はじめ、紙・筆の材料となる山の恵み、水の恵み、職人さんの技によって成り立っています。「画材との対話」とは、さまざまないのち、自然の恵みとの対話なのです。

京都のまちで日本画を描くことができるのは本当に幸せなことだと思っています。京都画壇の日本画家たちの息づかいを、さり気ない日常の中に感じることができるからです。

京都では、すべての人やものが、パズルのピースのように組み合わさって、文化の息づかいの聞こえるまちを支えてきました。その土壌が多くの日本画家を育てたのだと思います。

私も京都というまちに育てていただきながら、京都にふさわしい、パズルのピースの一つになれるよう、成長していきたいと思っています。

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