2018.12.26

「私の『老いの哲学』」
京都大学 名誉教授
京都R.C.元会長
三枝 武夫 君

テーマは「いかにして有意義な老後の人生を過ごすか」である。寿命が延びた社会になってこのことを積極的に考えるべき時代になってきた。とかく、人間は加齢により記憶力の減退や体力の衰えによって元気を失い、行動が消極的になる。ここで前頭葉の働きを活性化して老後の人生をより有意義なものにしたいというのが私の考えである。脳の働きのうち記憶力は側頭葉の働きによるもので加齢とともに減退するが、一方、思考や創造力、独創力や判断力などをつかさどる前頭葉は加齢によって必ずしも低下しない。前頭葉は脳細胞の中でも大きく、加齢によって多少収縮しても活性化の可能性は十分にあって、本人が努力すれば全体としてその活動を高めることも出来る。例えば、優れた芸術家や工芸家の作品を見ると高齢時、80歳や90歳以上になって素晴らしい作品を創作する例が多い。要は個人の心がけ次第ということになる。人生経験を積むことによりそれは進化向上するものである。人間の寿命の伸びた分を前頭葉の活用化に使えば有意義な人生の実現となる。年齢を重ねると未知な世界が広がってくる。それが「生きがい」というものであろう。

前頭葉を鍛える道は孔子の偉大な哲学に通じている。「論語」の冒頭、学而第一に有名な言葉がある。子曰く「学びて時にこれを習う。亦た(また)説(よろこばし)からずや。朋(とも)有り。遠方より来る。亦た楽しからずや」。孔子は最初に知見を得ることを「学ぶ」といい、時を経て再度、より深く思考すること、すなわち前頭葉を働かして考察することを「習う」と呼んで区別している。文の後半では、学問を通じて志を同じくする友達が遠くからきて、学問について対話することによって前頭葉が刺激される楽しさを述べている。今回、「老いの哲学」を考えたことにより、孔子の偉大な人生哲学の新しい「解釈」を得ることができた。

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