2018.11.28

伝統芸能 にしひがし」
演劇評論家、元京都新聞論説委員
西村 彰朗 氏

「粋」という漢字には「いき」と「すい」、ふた通りの読み方がある。これは、江戸(東)の文化と、上方(西)の文化、それぞれを代表する美意識だといわれる。「いき」とは、歌舞伎十八番の助六のようなカッコイイ男をいう。「すい」な男は例えば「廓文章(吉田屋)」に出てくる藤屋の若旦那・伊左衛門だ。人情に通じ、ときに身勝手な振舞いもするが、弱点をさらけだしても憎まれない。そのような人物のイメージに結びついている。

江戸歌舞伎と上方歌舞伎にはそれぞれ特徴がある。江戸歌舞伎の基盤は荒事(あらごと)の芸だ。上方歌舞伎は和事(わごと)の芸を基盤に成り立っている。荒事の原点には、派手な隈取りやこしらえで、悪人や悪霊を退治するスーパーマンのような役どころがある。一方で、江戸時代に実社会の出来事を舞台化した和事は、男女の色恋沙汰など人間模様をリアルに描写する。

江戸歌舞伎で荒事芸が発展したのは、当時の江戸が新興都市だったからではないか。全国から集まった人たちは互いに言葉も通じにくい。説明が無くてもわかる荒事芸が好まれたのだろう。一方で、歴史があり、文化も成熟していた上方では、荒唐無稽な芝居よりも人間関係の機微を描いた芝居が好まれた。芸能は、演者だけでなく、お客様の好みを反映して進化する。

日本舞踊も東と西では大きく違う。江戸では踊りが主で、上方では舞が主になっている。歌舞伎と密接なつながりをもって発展してきた東では、広い劇場空間でも観客にわかりやすいように、所作が派手で華やかな踊りが主となった。西は、花街を中心にお座敷舞として発展してきた経緯から、狭い場所で顔や手の細やかな動きで表現する舞が主流となっていった。

狂言についてもふれたい。茂山千五郎家と、山本藤十郎家は同じ大蔵流でも芸風が違う。茂山千五郎家は、京都の町衆の中から生まれた狂言師の家柄なので、芸風は明朗闊達。役者は個性派揃いの印象がある。それと対照的に主に東京で活動する山本藤十郎家の芸風は様式的で、家として統一された特色があるように感じる。

伝統芸能においては、東西それぞれのまちの歴史や環境の違いが、芸の違いとして今に伝わっている。多種多彩な文化が競い合うことが、日本文化の発展にとって望ましいと考えている。

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