2018.10.31

「庭園観察~観えない思いを察して~」
御庭植治(株) 代表取締役
(植治 次期十二代)
小川 勝章 氏

お庭は、その主(あるじ)を象徴する存在です。主が変わるとお庭も表情を変えていきます。そうして、先人が思いを込め技を駆使してきたお庭は、私に多くのことを教えてくださいます。

もうすぐ紅葉の季節です。紅や黄色に色づいた木々のあでやかさに目を奪われがちですが、常に緑をたたえる松が存在感を際だたせる季節でもあります。松は山とのつながりを感じさせるとして、昔からよく庭に植えられました。

松などの大きな木を移植する時、先人たちは長い時間をかけました。大きな根っこを一度に切ると木へのダメージが大きいので、まず太い根の3分の1ぐらいを切り、その切り口に細根が育つのを待ってから、残りの太い根を切って運びました。この作業を「根回し」と呼びます。先人たちの木に対する思いの強さを感じます。

お庭にじっくり向き合うと、先人たちのさまざまな知恵や思いに気づかされます。ある庭園の入口には五つの飛び石がS字型に配されています。4番目の石はあえて庭と逆向きに置かれ、5番目の石に立って初めて、お庭の景色が一気に目の前に広がる仕掛けが施されています。

あるいは、お庭を観る特等席は、石灯籠が教えてくださいます。灯籠は、主や大事なお客さまが庭をご覧になる時に座る場所に向かって据えられていることが多いからです。

山縣有朋公の別邸であった「無鄰菴」に私の高祖父・七代目小川治兵衛がつくった庭が残っています。ここでは庭のみせ場である池と滝が、部屋からまったく観えません。しかし、手前にある川筋の水音が、目に観えない池を連想させます。観せずに感じさせる、そんな願いが込められているように思います。

庭園は自然の力をいただいてつくりますが、あくまで人の手によるものです。自然に対して失礼はないか、どのように自然と向き合うか、私が常に葛藤を覚えるところです。庭園は自然に近しくあってほしい、自然と人をつなぐ役目を庭園が担えるように、と願っています。

冬にはお庭の力量が試されます。花や紅葉などのあでやかさが全てそぎ落とされ、庭の骨格が観えるからです。時季を変えていろいろなお庭にお出かけいただき、その美しさと共に心地よい時間の流れを感じていただければ幸いです。

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