2018.9.26

「地域のなかの京町家~住み続けることの意味~」
京都秦家 主宰
秦 めぐみ 氏

秦家は、元禄13(1700)年から昭和の終わりまで、京都で薬種業を営んできました。幕末の動乱期に「どんどん焼け」で焼失した住宅を、明治2(1869)年に再建した建物が、「表屋造り」と呼ばれる京町家として現存しています。「表屋造り」とは、通りに面して建つ表棟(ミセ)から敷地の奥へ向かって玄関棟、住居棟、土蔵を配し、それらを坪庭と座敷庭がつなぐ形式を指します。伝統的な商家の趣を今に伝える建物として、昭和58年には京都市の登録有形文化財になりました。

表棟と玄関棟、坪庭までが対外的な対応に使う公のエリアです。玄関庭にかかる内暖簾は、私的な生活空間との結界を示しています。

住居棟には「奥」と呼ぶ座敷があります。仏壇や床の間が並ぶ、家の中で最も厳粛な場所です。正月、祭りなど年中催事にあわせ決められた室礼に整えて時々の節目を迎えます。縁を隔てて広がる座敷庭は季節感にあふれ、庭が刻む自然のリズムは家人の体内時計となっています。

当家のある下京区太子山町は祇園祭の時に、太子山を出す山鉾町です。6月下旬には住まいを夏のしつらいに替えて祇園祭に備えます。祇園囃子が聞こえ始め、家々の軒に提燈が上がると町内は祭り一色。太子山の会所となる秦家の表棟には御神体の聖徳太子を祀り、山の懸装品を飾ります。屏風や生け花をしつらえて家全体がハレの空間へと様変わりします。

このように、京町家は一軒の住宅として完結した建物でありながら、その地域に良好な環境を提供する仕組みをつくりあげてきました。公私の区別をくっきりと形に現して、使い分ける住まい方もそのひとつです。庭によって内外を緩やかにつなげ、光や風、季節感を取り込む工夫は、住まい手に豊かな暮らしをもたらします。積み重ねられた暮らしは時を経て、独自の生活文化をかたちづくっていきます。その文化は、これから私たち日本人が生きていく術を探る大切な道標になると考えています。

京町家を遺産として鑑賞に留めるのではなく、受け継がれてきた文化を今の時間軸の中に溶け込ませていきたい。先人の知恵から継承できるものを選びとる工夫が必要だと思います。京町家から京都の未来をみつめながら、これからも家を守っていきたいと願っています。

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