2017.11.22

「過剰診断時代の予防がん学」
渡辺記念長命研究所 所長
渡邉 泱 氏

私の専門は前立腺だ。昨年、日本の男性が最も多く罹患したがんは、前立腺がんだった。
前立腺診断の歴史は古く、ギリシャ時代から行われていた。その方法は直腸に指を入れて行う触診だったが、診断法は飛躍的な発展を遂げた。今では「経直腸的超音波断層法」や、一滴の血液でがんを判定できるPSAという検診法が用いられている。

がん検診は、がんの予防につながる。PSA検診は、1990年代から各国で採用され、これによって前立腺がんは根絶できる、と信じられていた。ところが2005年に報告されたPSA検診の効用に関する研究結果によって、米国では死亡減少効果は無く、欧州では20%の死亡減少効果に過ぎないことが明らかになった。がん検診をしても、死亡する人がなぜ減らないのか。それは、1年ごとの検診では見つからない、生長の早い「電撃がん」が存在するからではないか、と考えられる。

検診の精度が高くなるのはよいことだが、それが「過剰診断」につながる側面がある。従来の常識では、直径1㎝程度の早期がんはやがて必ず2㎝ほどに生長して、浸潤・転移の可能性が高い進行がんになると考えられていた。だが、ここ数年の研究によって、多くのがんは、生長過程のある時点で消滅する、あるいは生長を止めることがわかってきた。このようながんを私は「良性がん」と呼んでいる。前立腺がんの90%は、潜在がん(直径1㎝未満)の段階で消えると私は推測している。また、直径1㎝以上のがんの8割は良性がんではないか、と考えている。

現在は、良性がんまで全てを治療してしまうケースが多い。これがいわゆる過剰診断にあたる。検診で見つかるがんの8割は良性であり、治療しなくても生命には関わらないことを、医師を含めた多くの人に認識してほしい。ただし、がんが良性か悪性かを見分ける方法はまだ、わかっていない。唯一の方法は、治療せずに様子をみる「意図的監視」だ。観察を続けて生長が確認されたものだけを治療することが、過剰診断を防ぐ最善の方法だと考えている。

がんによる死亡を減らし、過剰診断による不要な治療をなくすために力を尽くしたい。

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