2017.11.8

「文化財修理の現場から―仏像修理を中心に―」
(公財)美術院 常務理事 国宝修理所 技師
藤本 靑一 氏

私ども美術院では、文化財のなかでも、特に彫刻と大型工芸(神輿、大きな厨子、灯籠など)の修理をしている。50人足らずの職員が、年間60~80件の修理にあたる。
文化財修理の歴史をみると、わが国では明治30(1897)年に「古社寺保存法」が制定されて以来、国家が文化財を修理して保存にあたる体系がつくられた。それは、世界で3番目くらいに早かったといわれる。

明治31(1898)年には、岡倉天心らが日本美術院を設立した。その中に設けられた新納忠之介(にいろ ちゅうのすけ)を中心とする国宝修理部門が、現在の美術院の始まりだった。その後、名称や組織を変え、現在は「文化財保護法」のもと、国宝や重要文化財の修理を手がけるようになった。

文化財修理にあたる私たちの理念は、「現状維持修理」だ。「文化財が今日まで伝えられてきたすがたを現状のまま、これ以上損傷が移行しないように安定したかたちで、次の世代に伝えようとする修理」を意味する。つまり、伝えられてきたすがたを尊重する。剥がれた表面の彩色や金箔を全て落として、新たに塗り替えるような手法はとらない。例えば、表面の彩色や漆箔が浮き上がっていれば、膠やふのりで剥落止めを施す、といった作業になる。
仕事の現場はおもに、京都国立博物館や奈良国立博物館などの館内にある文化財保存修理所だ。もちろん磨崖仏の修理は現地でしかできないし、移動が難しい仏像については、寺の境内に修理工房を設けて作業する場合もある。

また、文化財の修理に際しては、その記録を残すことも重要だ。例えば、唐招提寺の平成大修理の際には、千手観音立像の953本の手を1本ずつ慎重に取り外しながら写真に収めていった。記録するだけで1カ月を要した。

私たちは、もてる技術の全てを尽くし、心をこめて文化財の修理に向き合っている。現在、京都国立博物館で「特別展覧会 国宝」が開催されている。今回、出品されている仏様は全て、当工房で修理した履歴のある国宝だ。この機会にぜひ、ご覧いただきたいと思う。

京都ロータリークラブ
〒604-0924 京都市中京区河原町通御池上るヤサカ河原町ビル4F
Tel 075-231-8738 Fax 075-211-1172
office@kyotorotary.com

Copyright (c) 2007 Rotary Club of Kyoto. All Rights Reserved. Site Map