2017.3.8

「能の魅力」
能楽師 観世流シテ方
河村 晴久 氏

日本の伝統芸能を代表する「能」は、ユネスコの無形文化遺産として、世界的にもその価値が認められている。

芸能は、宗教の場、祈りの場で生まれた。心からの祈りを言葉にして、メロディをつけ、体を動かして表現するようになった。だから芸能には宗教性と娯楽性がある。

その一つである能は、中国から伝わった「散楽」に始まる。これはサーカスや奇術のようなものだった。鎌倉時代になると散楽は「猿楽」と呼ばれ、寺や神社で祭礼の後に庶民が楽しむものとして盛んになった。

室町時代の初め、観阿弥・世阿弥が現われた。足利義満の支援を得て、能は庶民路線から貴族文化が大好きだった義満好みへと転じて行った。『源氏物語』など平安時代の古典も題材に取り込まれた。一般的な演劇にはストーリーがあるが、能は“旅人のひと晩の夢”のようなかたちで表現されるものが多い。世阿弥の確立した「複式夢幻能」という形式だ。表現するのは人の心であり、それは現代を生きる私たちの心の問題にも通じている。

では人の心を、動きでいかに伝えるか。その表現法は時代を経て、摺り足でゆっくりと動く、端正な舞へと変化していった。動きを削り続けることによって、最小限の型で力強さを表現する、現在のかたちになった。

3歳で初舞台を踏んだ私は、還暦を迎えてようやく「今からだ」と感じている。一人前と言われるには時間がかかる。だが逆に考えれば、たった50年で、およそ600年分もの知恵や技術を受け継ぐことができるのだ。しかもそれは、映像に残すだけでは決して伝わらない。世代から世代へ、じかに伝えることが大事だと思っている。伝統芸能とはそういうものだと思う。

能が永く伝承されてきたのは、常に人の心を表現してきたからであり、それがいつの時代にも観る人の心をふるわせたからだろう。現代においても、決して古くない。言葉がむずかしいと敬遠されがちだが、頭で理解する必要はない。心から心へ伝わるものがあるはずだ。よいものには心を豊かにする力がある。多くの人に、能や狂言、伝統的なものに親しむ時間をつくっていただきたい。

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